【令和6年2月】糖質カットを謳った炊飯器を販売するニトリなど4社に対する措置命令について解説

措置命令の発令

令和6年2月1日、同月5日、同月6日及び同月7日に、糖質カットを謳った炊飯器又は炊飯調理器の販売業者4社(株式会社ニトリ、Areti株式会社、リソウジャパン株式会社、AINX株式会社)に対し、消費者庁が、それぞれ景表法5条1号の優良誤認に該当することを理由として、措置命令を行ったと発表されました(発表は令和6年2月8日)。

 

措置命令の対象となった会社には、株式会社ニトリも入っており、大手企業に対する措置命令として、反響が大きいものと考えられます。 

 

また、この事案は、措置命令に先立つ令和5年3月15日に独立行政法人国民生活センターが公表した『糖質を低減できるとうたった電気炊飯器の実際』と題する報道発表資料でも問題視されていたものです。同報道発表資料でも、景表法に違反する(優良誤認)恐れがあると指摘されていました。

 

実際、国民生活センターには、消費者から血糖値が変わらないといった訴えや糖尿病の人が使って大丈夫なのかといった相談が寄せられていたようです。 

 

 

優良誤認の内容、不実証広告規制

(1)優良誤認の内容

優良誤認と認定された内容は、非常に単純で、各社が当該炊飯器を使用すれば、通常よりも糖質をカット(各社それぞれですが、33%~59%の糖質カットとの表示)できるとの広告を行ったものの、糖質カットを根拠づける合理的な資料がなかったというものです。

 

実際の機能よりも優れている旨を広告している(広告>実際の機能のずれ)典型的な優良誤認の事例ということができます。

 

(2)不実証広告規制

消費者庁は、優良誤認の該当性を判断する際には、不実証広告規制という手続を利用して判断することが多いのですが、今回の事案も不実証広告規制を利用して進めています。以下、不実証広告規制を解説します。 

 

措置命令に関する不実証広告規制については景表法7条2項、課徴金納付命令に関する不実証広告規制については景表法8条3項に定められています。 

 

不実証広告規制は、消費者庁等が事業者に対し、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めること」ができ、事業者が合理的な根拠を示すことができなかった場合、措置命令の場合には優良誤認とみなされ、課徴金納付命令の場合には優良誤認と推定されるという制度です。なお、みなされるというのは争う余地がなくなることを意味し、推定の場合には争う余地があるものの覆すのは大変です。 

 

不実証広告規制における合理的根拠については、

①提出された資料が客観的に実証された内容のものであること

②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

という要件を満たす必要があります。

 

上記①については、試験・調査によって得られた結果や専門家等の見解又は学術文献を根拠とする必要があります。また、上記②については、例えば、試験結果と実際に使われる状況が異なっている場合には、要件を満たさないということになります。試験結果等や学術論文等は、実際の使用状況等と合致する必要があります。 

 

消費者の声が措置命令につながることが多い

当事務所も、事業者の担当者などから、どのような場合に消費者庁から措置命令等が出されるのか質問を受けることが多いです。

 

このような質問を受けた際に、「消費者からのクレームが多い商品・サービスについては、調査の対象となりやすく、調査命令につながることがある」と回答することがあります。つまり、消費者の声が措置命令につながるということです。 

 

今回の措置命令は、まさにそのパターンと言えるでしょう。 

 

 

 

 

最後に

今回、優良誤認の場合における措置命令の事案紹介しました。事業者からすれば、優良誤認とならないようにその根拠資料を準備することが非常に重要であることはもちろんです。

 

それとともに、消費者の声やクレームについても意識して対応する必要があることを意識してもらえればと思います。

 

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【令和6年1月】二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売業者に対する措置命令について

令和6年1月26日、29日及び30日、二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売業者4社に対し、景品表示法に基づく措置命令が行われました(消費者庁「二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品の販売事業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について」https://www.caa.go.jp/notice/entry/036222/)。

 

二酸化塩素による空間除菌を標ぼうする商品については、令和4年1月にも大手製薬会社の人気商品が措置命令の対象となり、大きなニュースとなりました。その後も空間除菌を標ぼうする商品に対する措置命令が続いています(令和5年12月21日及び22日の措置命令事案についての解説は、こちら:

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指摘点と消費者庁の判断

今回、措置命令を受けた販売業者の商品は、いずれも、当該商品を室内に設置したり、身体や鞄にぶらさげることで、空間に浮遊する菌を除菌する効果があるような表示を、商品パッケージやウェブサイトにおいて行っていたことを指摘されました。

 

処分を受けるまでの間で、販売業者各社が、かかる表示について合理的根拠があることを示すための資料を提出したようですが、消費者庁は、いずれも表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないと評価しました。その結果、販売業者の行っていた表示は、優良誤認表示として、景品表示法に違反するとの判断がなされました。

 

優良誤認表示に該当し処分を受けるか否かは、表示に合理的根拠があると示すことができるかにかかっていますが、このハードルは高いと実務上、言われています。

表示の根拠となる試験を実施している場合も、試験の内容が表示とぴったり合致しているかが確認されることとなります。特に商品の効果について具体的数値を伴った表示をしている場合、どのような使用環境・条件でも等しく当該数値の効果が表れるのか、問題視されやすい傾向にあります。

 

広告をするにあたっては、真実に合致した表現をすることはもちろんのこと、広告表示としてどこまで言及することができるかのか、慎重な検討が必要です。

 

行政指導記事

>【販売中止・自主回収指導】医薬品成分を含む健康食品について

>機能性表示食品の販売会社に対する措置命令

>【令和5年12月22日発出】空気清浄効果等を標ぼうする商品の製造販売会社に対する措置命令

【販売中止・自主回収指導】医薬品成分を含む健康食品について

はじめに

「メンズワイプゼロ」「メンズワイプゼロマイルド」という製品について、令和5年12月14日に長崎県から、令和6年1月19日に北海道から、医薬品成分である「アトロピン」、「スコポラミン」、「メサコニチン」が検出された旨の指摘がなされ、医薬品医療機器等法第55条第2項(無承認医薬品の販売・授与等の禁止)違反に当たるとし、この製品を販売中止及び自主回収するという事態になりました。

 

これはなぜ法律に反することになってしまったのでしょうか。

 

医薬品を販売するには承認が必要

医薬品は、人の生命・身体に影響を及ぼす可能性が高いため、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」といいます)において、開発から製造・販売まで厳しく規律されています。いくつもの実験や(非)臨床試験をし、国の承認審査を経て、ようやく製造販売ができるようになります。

 

このように、厳格な過程を経ずに無承認で医薬品を販売することはできず、必ず国の承認が必要になります。

 

本製品は、医薬品であるにもかかわらず承認を得ていなかったため、薬機法に違反することになりました。

 

 

何が医薬品にあたるか

薬機法上、医薬品とは、以下のものとされています。

 

①日本薬局方に収められている物

②人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等でないもの

③人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの

 

本件では、本製品に含まれていた「アトロピン」等が医療用医薬品として日本薬局方に収められているので、①に該当し、医薬品ということになります。

また、医薬品成分が含まれていなくても、人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用される目的を有するものは、医薬品にあたりますので、本件では問題となっておりませんが、医薬品的な効能効果をうたって健康食品を販売したような場合にも、未承認医薬品の販売や広告の規制に反することになります。

 

まとめ

本件は、医薬品成分が含まれていることから、未承認医薬品の販売にあたるという判断になりました。

 

医薬品成分が含まれていない場合でも、医薬品的効能効果をうたうと医薬品になってしまうので、注意しましょう。

 

 

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景品表示法で規制されるステマ規制とは?過去のステマ事例紹介

2023年10月からステマ規制が始まりました

令和5年3月28日、景表法5条3号の内閣総理大臣の指定告示にステルスマーケティングが加わ、同年10月1日からステルスマーケティング規制が始まりました。ステルスマーケティング規制に違反すると、消費者庁から行政指導がなされる、措置命令(景表法7条)が出る可能性があります。措置命令が出た場合、事業者名や行為が公表されます。

 

ここでは、ステルスマーケティング規制が始まる前に、過去、ステルスマーケティングであると騒がれたことのある事例を見ていこうと思います。そして、どのように対応すれば、ステルスマーケティング規制に違反しないようになるかを確認したいと思います。

 

過去のステルスマーケティング事例

なりすまし型と利益提供型

ステルスマーケティングは、様々な手法がありますが、代表的な類型としては、なりすまし型と利益提供型があります。なりすまし型は事業者や広告会社が一般消費者などを装って表示することを、利益提供型は事業者が第三者(有名人やインフルエンサー等)に対して利益を提供して、そのことを秘した状態で第三者が表示をすることをいいます。

 

では、過去の事例を見ていきましょう。

 

●なりすまし型

飲食店が口コミ代行業者に報酬を渡して高評価の口コミの書き込みを依頼し、ある会社が運営している飲食店の評価サイトにおいて高評価を得ていたという事例がありました。

 

次に、ある2社が家庭用ゲーム機のシェア争いをしている中で、一方の家庭用ゲーム機に不具合が生じました。当該不具合は、巨大掲示板やブログ等でも大いに話題になりました。そのような中で、不具合の出た家庭用ゲーム機を擁護し、他方の家庭用ゲーム機を非難するような書き込みがなされました。多くの書き込みがなされたことから、組織的に行われたのではないかと疑われ、不具合の生じた家庭用ゲーム機を販売している会社の従業員が行っていたのではないかという疑いのあった事例があります。

 

●利益提供型

あるオークションサイトから依頼を受けた有名人たちが、依頼を受けたことを秘して、オークションサイトで商品を安く落札できたなどと投稿していたという事例がありました。ステルスマーケティングを行った有名人はバッシングを受け、ステマという言葉が世に広まった事例です。

 

次に、ある有名なアニメーション映画を制作した会社が、同映画の感想を漫画にして公表することを漫画家に依頼し、報酬を支払いました。依頼を受けた漫画家は、PRや広告であることを表示せずに、同映画の感想漫画を公表したという事例があります。この事例では、会社がステルスマーケティングに関する表示が不足していたことについて謝罪文を公表しています。

 

ステルスマーケティングのデメリット

ステルスマーケティングのデメリットは、既に述べたとおり、事業者に対して、措置命令が出されて公表されるということになります。それに加えて、有名人やインフルエンサー等がバッシングを受けるなどして、仕事や影響力を失うといったことがありました。

 

ステルスマーケティングは、一般人から指摘を受けると炎上しやすく、事業者のみならず、関与した有名人やインフルエンサー等も大きなダメージを受ける可能性があります。

 

 

どのような対応をすれば良かったのか

一般消費者は、広告であることを認識すれば、多少の誇張や誇大表現があることを理解して商品等を選択すると言われています。そして、この観点から、消費者庁が事業者に求めていることは、一言で言えば、「一般消費者にとって広告であることが分かる表示」です。

 

上記事例においても、「広告」、「PR」という表示をしておけば、ステルスマーケティング規制の違反とはならないと考えられます。また、「広告」、「PR」といった表示がそぐわない場合、「○○から依頼を受けて~~をしています」といった表示をすることでも、ステルスマーケティング規制には違反しないと考えられます。なお、「広告」、「PR」等の表示したらできないような書き込み等は、そもそもすべきではありません。

 

 

さいごに

「広告」、「PR」といった表示は、ステルスマーケティング規制を回避する最も簡単な方法です。しかしながら、ステルスマーケティング規制の内容を理解していれば、自社のマーケティング方法がステルスマーケティング規制に違反しないかということを判断することができます。

 

 

ここでは、紙面の都合上、部分的にしか紹介ができませんが、ステルスマーケティング規制の全体像、自社においてどのように対応すれば良いのかといったことを理解しておくのが良いでしょう。

 

 

読者の方の参考になれば幸いです。

【令和5年12月22日発出】空気清浄効果等を標ぼうする商品の製造販売会社に対する措置命令

消費者庁が、空気清浄効果等を標ぼうする商品の製造販売業者2社に対して、同商品に係る表示について、景品表示法上の優良誤認表示に該当するとして、措置命令を行いました。(参考:https://www.caa.go.jp/notice/entry/035721/

 

空気清浄効果等を標ぼうする商品の表示に対する措置命令としては、令和4年1月に大手製薬メーカーの人気商品に対する措置命令が出されたことが記憶に新しいです。コロナ禍に入り、一般消費者の除菌等への意識が高まったこともあり、それ以降除菌を含む空気清浄効果に関する商品の表示には、行政も目を光らせているように感じられます。

 

また、令和4年1月の措置命令時と同様、今回の措置命令も、消費者庁は、景品表示法第7条2項に基づき、商品表示の裏付けとなる合理的根拠を示す資料の提出を求め、2社とも同資料の提出を行ったものの、それらの資料は合理的な根拠を示すものと認められなかったことから、措置命令を出されるに至っています(不実証広告規制)。

 

2社がどのような資料を提出したのか、提出資料のうちどういった点が合理的根拠にならないと評価されたのか等は公表されていませんが、短期間で資料提出を行わなければならないこと、表示内容と合致する資料を提出できない場合、合理的根拠と認められていないのではないかと思われること等から、景品表示法の優良誤認表示に該当しないようにするためには、実際の効果をそのまま表示するよう細心の注意を払う必要があるといえます。

 

コロナ禍で注目を浴びた除菌関係の効果を有する商品等、消費者からのニーズが高い商品類型は、ニーズに比例して行政からの注目も浴びやすいため、表示内容・表示方法にも、より注意を払うようにしましょう。

 

機能性表示食品の販売会社に対する措置命令

12月19日に、機能性表示食品に関して消費者庁から措置命令が行われたことが公開されました。
(参考:https://www.caa.go.jp/notice/entry/035684/)
 

機能性表示食品に関しては12月5日にも別の事案で措置命令が行われており、2週間程で2件も指導が行われていることになります。そして、5日も今回もいずれの措置命令も商品がいわゆる痩身効果を有するサプリメントであることが共通しており、痩身関連に関しては、措置命令が多い消費者庁の傾向が踏襲されています。
 

今回の措置命令の内容と5日の措置命令の内容を比較すると、痩身効果について強調をし過ぎているという指摘は共通の指摘となっていました。それに加え、今回の措置命令では、No.1表示に関しても指摘がされています。具体的な指摘内容としては、No.1を表示するための根拠となる調査が、調査対象者が実際に商品を使用したことがあるかどうかを確認せず、WEBサイトのイメージのみで商品を選択させるという客観性を欠く調査方法でありました。そのため、不適切な調査方法に基づく結果をNo.1表示の根拠としたことが問題として指摘をされています。
 

上記のとおりですが、今回の措置命令から、機能性表示食品といえども誇大な表示は認められないということや、No.1表示をする場合の根拠となる調査方法に関しては、適正な方法で行うことということが示されています。特に、No.1表示等の比較広告を行う際の注意事項は消費者庁からもガイドラインが提示されておりますので、改めて確認すると良いでしょう。
 

【参考】
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_37.pdf

【令和5年11月27日発出】ダイエットサプリメント(機能性表示食品)に対し消費者庁より措置命令

サプリメント(機能性表示食品)に対し消費者庁より措置命令

消費者庁は、令和5年11月27日、サプリメント販売会社が販売するサプリメント(機能性表示食品)につき、景品表示法に違反する行為(優良誤認表示)があるとして、措置命令を出しました。
当該商品は、ダイエット効果などをうたったサプリメントであり、機能性表示食品としての届け出がなされているものでした。
消費者庁は、今回、事前に届け出た機能性を超える、科学的根拠のない効果を広告表示しているなどとして、販売会社に対し措置命令を出しました。
なお、消費者庁は、今年の6月30日にも、機能性表示食品の届け出のある商品に対し措置命令を出しています。

機能性表示食品について

機能性表示食品制度とは、国の定めるルールに基づき、事業者が、食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる、という制度です。
この制度に基づいた食品を、「機能性表示食品」といいます。
例えば、きちんとした科学的根拠に基づき「〇〇という成分には高めの血圧を下げる効果が報告されている」ということが言え、必要な各事項を商品販売前に届け出れば、その商品の広告において、届け出内容である「〇〇という成分には高めの血圧を下げる効果が報告されています」という内容を表示することが出来るのです。
また、機能性表示食品制度は、消費者庁長官の許可や認可を受けるまでは不要であり、届け出で足ります。この制度は平成27に始まったものですが、訴求効果が期待でき、また、届け出で足りることもあってか、年々、届け出件数が増えていました。
とはいえ、届け出で足りると言っても、事業者がその責任をもって、科学的根拠に基づいて機能性を表示する必要があります。事業者が根拠としている科学的根拠が裏付けとならないものである場合、届け出内容と合致した広告であったとしても、法律違反を指摘される可能性があります。
また、届け出た内容の範囲を逸脱するような表示をしてしまった場合も、法律違反を指摘される可能性がありますし、「国のお墨付き」といった表現をした場合も違反を指摘される可能性があります。
また、ある成分に機能があるのであり、商品自体に機能があるとの根拠を有していないにもかかわらず、商品自体に機能があるかの如く表示することも認められません。
上記の例で言えば、「△△(商品名)には〇〇という成分が含まれています。〇〇という成分には高めの血圧を下げる効果が報告されています。」と表示するのは良いのですが、「△△(商品名)には高めの血圧を下げる効果が報告されています。」と表示したり、単に、「高めの血圧を下げる効果が報告されています。」とだけ表示したりすることは認められません。

今回、何がいけなかったのか

消費者庁は、今回、①合理的な根拠なく、あたかも本件商品を摂取すれば、誰でも、容易に、外見上、身体の変化を認識できるまでの痩身効果や顔面の美白(シミが薄くなる)効果、抗アレルギー効果、アンチエイジング効果等の効果が得られるかの如く表示をしていたことや、②消費者庁や国が痩身効果を認めているかの如く表示をしていたを理由に措置命令を出しました。
今回の商品については、機能性表示食品としての届け出があり、届け出の内容は、「本品には、りんご由来プロシアニジンが含まれます。りんご由来プロシアニジンには肥満気味な方の体重、体脂肪、内臓脂肪、ウエストサイズの減少をサポートすることにより、高めのBMIを減らす機能が報告されています。BMIが高めの方に適した食品です。」というものでした。
これに対し、実際の広告においては、①段々となった腹部の肉をつまむ人物のイラスト及び細身の人物のイラストや、「モデル級の体型をGET!」、「美白効果」、「シミが薄くなっていることも確認をされました♪」、「抗アレルギー」、「アトピー性皮膚炎患者の痒み軽減効果」、「アンチエイジング」等の表示がされ、また、②「機能性表示食品とは、根拠に基づいて効果が届出されているもので国が激やせする効果を認めているんです!」、「国が痩せると認めたサプリ」、「国が痩せる効果を認めた機能性表示食品」等の表示がされていました。
これに対し、消費者庁より、前記の通りの指摘がなされたところとなります。
なお、商品の広告においては、痩身効果以外の効果につき、「※試験結果は出ておりますが機能性表示では未承認」といった記載や、商品自体の説明ではなく商品に「配合されている主成分の試験結果及び説明です」といった記載があるなどしましたが、それらの記載があるからといって、違反にならないものではありません。

まとめ

今回、今年の6月に続き、消費者庁が、機能性表示食品に対し措置命令を出しました。
当然のことではありますが、機能性表示食品であったとしても、不適切な広告をしていた場合、措置命令の対象となりますし、年々、機能性表示食品の届け出が増えていた状況もあり、消費者庁において、機能性表示食品に対してもきちんと目を光らせていると言えるでしょう。
機能性表示食品の広告をするにつき、合理的な根拠、科学的な根拠に基づく必要がありますし、届け出の範囲を逸脱した内容の広告をすることも出来ません。また、消費者庁や国がお墨付きを与えたような表示をすることも出来ません。
機能性表示食品についても、それらの点に注意しながら、適切な広告をする必要があると言えます。

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腫瘍に効く水を販売したとして薬機法違反で逮捕された件について弁護士が解説

腫瘍やアレルギー、高血圧を予防できる水を販売して刑事事件に

腫瘍やアレルギー、高血圧の予防効果が期待できると称した水を販売したとして、警視庁生活環境課が、令和5年11月30日までに、薬機法違反の疑いで、東京都港区の医療機器販売会社の代表取締役ら4人を逮捕したと発表しました。また、同じ容疑で、会社についても、書類送検したとのことです。

 

 

薬機法における未承認医薬品の広告について

薬機法68条は、承認前の医薬品や医療機器等の効能効果の広告を禁じています。つまり、承認されていないにもかかわらず、医薬品や医療機器等に認められる効能効果(これを「医薬品的効能効果」などといいます。)を広告することは、薬機法68条に違反することとなります。そして、薬機法68条に違反すると、薬機法85条5号によって、二年以下の懲役または二百万円以下の罰金が科される可能性があります。

 
疾病の治療又は予防を目的とする効能効果は医薬品的効能効果ですので、本件も未承認医薬品の広告をしたと疑われて逮捕されたものと考えられます。腫瘍(ガン)というと疾病(病気)の代表格ですから、医薬品的効能効果の広告というのも分かるかと思います。

 

 

なぜ、未承認医薬品とされるのか?

ここで、水は医薬品ではないのではないか?ということから、何故、未承認医薬品の広告となるのか疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。ここにも、薬機法の解釈が関わってきます。薬機法2条に医薬品の定義が定められており、また、旧厚生省が出した「無承認無許可医薬品の指導取締まりについて」(「四六通知」と呼ばれています。)という通知が、薬機法2条の解釈について方向性を示しています。

 
薬機法2条と四六通知によると、医薬品的効能効果を広告している物(医薬品的効能効果を目的としている物)は薬機法上、医薬品に該当するものと解釈することができます。

 
したがって、水(人によって何らかの加工がなされている水のようです。)であったとしても、広告内容如何によって、薬機法上、医薬品と評価されることになります。そして、当然、当該水は、医薬品として承認されているわけではありませんので、医薬品的効能効果を広告することによって、未承認医薬品の広告、薬機法68条違反となるわけです。

 
広告内容次第で薬機法違反、刑事罰につながってしまうということに注意が必要です。

 

 

本件についての雑感

本件に関する報道によると、販売されていた水は、通常の飲料水の成分と変わりがないとのことです。とすると、効能効果がないにもかかわらず、販売している水に効能効果があるように装った上、購入者を騙してお金をもらっているので、詐欺ではないかと考える方もいらっしゃると思います。

 
ここで、薬機法68条違反と詐欺の違いについて少し触れておきたいと思います。
薬機法68条違反は、先ほども紹介したとおり、医薬品的効能効果を謳った未承認医薬品を広告することです。

 
それに対し、詐欺罪は、加害者の欺罔行為、被害者の錯誤、被害者の処分・交付行為、被害者から加害者への利益移転といった要素で構成されています。少し難しいですが、例を挙げて説明をすると、「実際には効能効果がないにもかかわらず、ガンに効く水であると広告をして購入申し込みを待つこと」(加害者の欺罔行為)、「被害者が広告を信じて、ガンに効く水と信じてしまうこと」(被害者の錯誤)、「被害者が当該水を、お金を出して購入すること」(被害者の処分・交付行為、被害者から加害者への利益移転)ということになります。

 
薬機法68条違反も、詐欺罪も、検察官が有罪であることを証拠によって立証しなければなりません。その観点から見ると、薬機法68条違反の方が詐欺罪の立証よりも難易度が低いことがよく分かります。つまり、薬機法68条違反は、あくまで未承認医薬品の広告が存在するということが中心的な立証対象です。広告が正しいか否かは問題とはなりません。しかしながら、詐欺罪の場合には、実際にはガンに効果がないことも立証対象としなければならなくなり、その立証の難易度は非常に高くなります(文系の私には、その立証方法もよく分かりません。)。

 
そういった理由もあって、警察官や検察官としても、立証しやすい薬機法68条違反(広告に着目すれば良い)を選択して逮捕に至ったのかもしれません。

 

 

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事業主なら知っておきたい、社会保険、労働法一般、解雇について

事業を営んでいる方が人を雇い入れる場合、社会保険や労働法の問題、場合によっては解雇の問題等がかかわってきます。
これらにつき、法律などにより様々なルールが定められておりますが、ここでは、事業主なら知っておきたい一般的な内容について見ていきたいと思います。
 

事業主なら知っておきたい、社会保険の適用ルールとは?

日本の社会保険制度においては、会社や事業主側が手続きをしたり、支払いをしたり等しなければならない部分が多々あるため、事業主側において社会保険の適用ルールを知っておく必要があります。
 

そこで、今回は、社会保険が適用になるルールなど、事業主の目線で社会保険をご紹介したいと思います。
 

社会保険とは

一般的に、社会保険とは、次の5つの保険を包括した総称のことを言います。
 

  • ・健康保険:病気やケガによる通院・入院・長期休業、出産、育児休業関係の保険
  • ・介護保険:介護ケア関係の保険
  • ・年金保険:遺族の生活保障、障害状態の生活保障、老後の生活保障関係の保険
  • ・雇用保険:失業時の生活保障、スキルアップ関係の保険
  • ・労災保険:業務にかかわる病気やケガ関係の保険
    ※なお、雇用保険と労災保険をあわせ、労働保険と呼びます。

 

これらは、加入することが国から義務付けれている保障制度であり、病気などの理由で仕事ができない状態になった時でも最低限の生活ができるように個人が国に保障されている保険と言えます。
 

事業主はこれらの社会保険の保険料を従業員の給与から計算し、会社としてあるいは従業員の代理として支払うなどします。労災保険については会社・事業主が全額負担になっており、事業主にかかる負担は大きいと言えます。
 

社会保険の適用ルールとは

社会保険の内の健康保険、年金保険について見ますに、それらの保険は会社に所属していない個人でも、保険に加入し保険料を支払っています。
 

会社に所属していない個人、または個人事業主の場合は、原則として、自分で国民健康保険と国民年金に加入することになっています。加入しないと、医療費の3割負担等がなくなり全額負担になるなどします。
 

このように、本来自分で加入することができる保障制度ですが、法律により、従業員を雇用した場合において社会保険の切り替えが必要なことなどが定められています。
 

それでは、事業主側はどのような場合に社会保険に切り替えなければならないのでしょうか。
 

健康保険法第3条や厚生年金保険法第6条で、強制加入の事業所とはどのような場合かが明示されています。
 

健康保険、厚生年金保険の強制適用事業所とは下記の事業所をいいます

健康保険・厚生年金保険においては、「事業所」を一つの単位とします。
 

健康保険の適用を受ける事業所を適用事業所といい、法律によって加入が義務付けられている強制適用事業所と、任意で加入する任意適用事業所の2種類があります。
 

強制適用事業所は、次の①又は②の事業所です。
 

  1. ①次の事業を行い常時5人以上の従業員を使用する事業所a製造業b土木建築業c鉱業d電気ガス事業e運送業f清掃業g物品販売業h金融保険業i保管賃貸業j媒介周旋業k集金案内広告業l教育研究調査業m医療保健業n通信報道業o士業など
  2. ②国又は法人の事業所常時、従業員を使用する国、地方公共団体又は法人の事業所

 

概ね、①は個人事業所の場合、②は法人の事業所の場合と整理できます。
 

(農林漁業、サービス業を除き)個人事業所の場合は、5人以上の従業員を常時使用する場合、強制適用事業所となります(サービス業は除きますので、個人事業の場合、飲食店や美容業等のサービス業については、従業員が何人いようと強制適用事業所にはなりません。)。
 

法人の事業所の場合ですが、代表取締役や役員も加入の対象となります。よって、法人の事業所であれば規模を問わず全ての事業所において原則加入が義務付けられます。
 

現在、個人事業主であっても、今後、従業員を雇う場合や法人に切り替えるときのために、社会保険制度についてはきちんと知っておく必要があります。
 

事業主なら知っておきたい労災について。雇用保険とその法律とは?

次に、社会保険の一つである、雇用保険について見ていきたいと思います。
 

雇用保険は国の保険制度であり、強制保険です。その役割は、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うことなどです。
 

日本では、昭和22年(1947年)に失業保険法として制定され、昭和49年(1974年)に雇用保険法に改正されました。
 

事業主は労働保険料の納付、雇用保険法の規定による各種の届出等の義務を負うことになっています。
 

雇用保険の適用ルールを、分かりやすくポイントに分けて紹介します。
 

雇用保険とは

【ポイント①】

雇用保険については、(農林水産業の一部の事業を除き)業種、規模等を問わず、すべて適用事業となり強制加入が必要です。
 

雇用保険の適用事業に雇用される労働者は、原則としてその意志にかかわらず当然に被保険者となります。ただし、1週間の所定労働時間が20時間未満である方や同一の事業主に係属して31日以上雇用されることが見込まれない方は雇用保険の適用除外となるなど、雇用形態等により被保険者とならない場合もありますので確認が必要です。
 

【ポイント②】

1人でも従業員を雇用していれば、雇用保険加入手続きが必要となります。
 

正社員の外、パートやアルバイトであっても(適用除外になる場合を除き)雇用保険への加入が必要となります。
 

【ポイント③】

雇用保険法に基づき、適用基準を満たす労働者については、事業主や労働者の意思に関係なく、被保険者となった旨を公共職業安定所(ハローワーク)に届け出なくてはなりません。こちらの届け出は事業主が行うものとなります。具体的には次の通りです。
 

【雇用保険の加入手続き方法】

事業主は、事業を開始し労働保険の適用事業となったとき、まず、「労働保険の保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署または公共職業安定所に提出します。
 

そして、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付することになります。
 

また、雇用保険の適用事業となった場合は、上記のほかに、「雇用保険適用事業所設置届」および「雇用保険被保険者資格取得届」を所轄の公共職業安定所に提出しなければなりません。
 

その後新たに従業員を雇い入れた場合は、その都度、事業所を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。
 

この届出によってハローワークから交付された「雇用保険被保険者証」については事業主から本人に渡す必要があります。
用意する書類等については、専門家へ相談するのがいいでしょう。
 

アルバイトを雇う前に。知っておくべき雇用ルール【契約面】

雇用における法律などは、企業内における人事や法務など専門的知識を持ち合わせた人でない限り、あまり知らないというのが現状です。
 

また、アルバイトやパートタイム従業員を雇用する際、ともすれば安易に考えがちになってしまいますが、アルバイトやパートタイム従業員を雇用する際にも労働法等が適用されます。
 

そこで、ここでは、募集をかけて実際にアルバイトを採用することになった時、従業員が働く前にすべきことを、労働基準法等に基づいてご紹介します。
 

【社会保険への加入】

採用したアルバイトが事前にどんな保険に入っていたかはさておき、事業主側は以下で適用する条件に沿ってそれぞれの保険に加入する義務があります。
 

【労災保険】

雇っている人数、期間や労働時間に関係なく、1日だけの短期アルバイトも含めてすべての従業員が対象の保険です。
 

労災保険は、万一の労働災害や通勤災害の時に従業員を守るものであることはもちろん、わずかな保険料で事業主に代わって補償・給付を行う制度ですから、忘れずに加入しましょう。
 

 

【健康保険・厚生年金保険】

アルバイト等が被保険者の対象になるか否かの判断は、同じ事業所で同様の業務に従事する一般社員の所定労働時間および所定労働日数を基準に判断することとなります。

労働時間及び労働日数がいずれも一般社員の4分の3以上である場合は、被保険者になります。

その他、特定適用事業所等の場合は、4分の3未満でも該当する場合がありますので、詳細は専門家に確認するのが良いでしょう。

 

 

【雇用保険】

1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上引き続き雇用されると見込まれる従業員は、アルバイトまたはパートタイマーであっても雇用保険の対象となります(但し、学生は原則として雇用保険の適用除外となります。また、季節雇用者も適用除外になる場合があります。)。
 

雇用した際、保険に加入すると、保険料負担につき事業主側が負担する部分があり、支払っている給料以上に出費がかさむことから、これをおろそかにする事業主が少なくありません。

ですがそれは違法行為となってしまいますので、加入義務があるかを確認し、今からでもスムーズな手続きを行いましょう。

 

 

【雇用契約書を交わす】

保険等の手続きも重要ですが、実際に働く前には、働く条件等を記載した雇用契約書を従業員と結ぶなど、労働条件を明示することが必要です。
 

アルバイトなのか正社員なのか、雇用形態により契約書等で記載及び合意する事項が異なりますので注意が必要ですが、共通していることは雇用契約書や労働条件通知書などの書面で従業員に通知することが義務づけられていることです。

 

雇用契約書や労働条件通知書には、

 

  • ・労働契約の期間
  • ・仕事をする場所・仕事の内容
  • ・勤務時間、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、交替制勤務の場合のローテーション
  • ・賃金の決定、計算と支払の方法、締切と支払時期
  • ・退職に関すること、解雇事由等

 

等を記載する必要があります。
 

記載すべき条件につきましては、労働基準法第15条、同法施行規則第5条、とパートタイム労働法(正式には短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の完全等に関する法律といいます。)第6条等をご確認頂ければと思います。

 

更に、労働条件の明示については改正があり、2024年4月から労働条件明示のルールが変わることになります。

 

それまでは、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容を明示するだけでよかったのですが、改正により、これらの「変更の範囲」についても明示することが必要になりました(変更の範囲とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲を指します。)。

 

そのほかにも明示する事項が増えるなどしていますので、改正後のルールについてもご注意下さい。

 

【解雇に関して】

解雇に関してのトラブルは後を絶ちません。

アルバイトやパートタイムであっても、解雇条件は正社員と同等の条件が適用されます。
 

法律により解雇が禁止されている場合(労働基準法第19条外)では、

 

  • ・業務上の傷病により休業している期間と、その後30日間の解雇
  • ・産前産後の休業している期間と、その後30日間の解雇
  • ・女性であること、あるいは女性が結婚、妊娠、出産、産前産後の休業をしたという理由による解雇
  • ・国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇
  • ・労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇

 

などは禁止されていますが、これらはアルバイトであっても異なりません。
 

アルバイトを雇う前に。知っておくべき雇用ルール【労働基準法・時間と金銭面】

一見、簡単に雇えそうなアルバイトやパートタイムなどの短時間労働の雇用ですが、アルバイトもパートタイマーも、法律上、会社が雇用している「労働者」として定義されており、労働基準法等による規律があります。

 

今回は、アルバイトの雇用前に知っておきたい条件、特に時間や金銭面に焦点をあててご紹介します。
 

まず最低労働賃金を確かめよう!

短時間労働が前提のアルバイトやパートタイムの雇用は、時給制を導入するのが一般的です。時給の金額は地域により最低労働賃金が定められています。その上、一部の業種や特定の職種でも最低賃金が異なりますので、地域と職種から提示するべき時給の金額を確かめる必要があります。

 

労働時間と休憩時間とは?

アルバイトまたはパートタイムの労働時間は、休憩時間を除き原則として1週間40時間、1日8時間までと決められています。
 
休憩時間は1日の労働時間により、以下の時間が労働基準法で定められており、この時間(以上)の休憩時間を設けることが義務となります。

1日の労働時間が

6時間まで ⇒ なし
6時間を超え8時間まで ⇒ 45分以上
8時間超 ⇒ 60分以上

 

有給について

給料をもらいながら休める有給制度。一見、正社員や契約社員のような長期的な雇用形態だけが適用する制度のようにもイメージしてしまいがちですが、アルバイトやパートタイムでも採用から6か月を経過した場合は適用になります(但し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して与えるものとなります。)。さらにその後1年を経過するごとに取得できる有給日数が異なります。
 

雇用しようと思っているあるアルバイトまたはパートタイム従業員の勤続日数が6ヶ月を超えるのか否かでまず有給適用になるか否かが分かれますので、事前に頭に入れておくべきでしょう
 

尚、例えば契約更新をしてトータルで6ヶ月を超える場合にも、同条件が適用になります。

 

残業代について

残業代や深夜手当などの割増手当は、雇用形態を問わずすべての従業員に適用されます。時給にも最低賃金があるように、残業代や深夜手当の金額にも最低支払わないといけない額が定められています。アルバイトまたはパートタイムに関しては以下のとおり計算をしなければなりません。

 

 

時間外(時間外手当・残業手当)

1日8時間・週40時間を超えたときは25%以上(1か月に60時間を超える時間外労働の割増率は、50%以上

 

休日労働(休日手当)

法定休日(週1日)に勤務させたときは35%以上

 

深夜労働(深夜手当)

22時から5時までの間に勤務させたときは25%以上

雇用形態の多様化で、アルバイトやパートタイム従業員は会社にとっては欠かせない存在となっています。当事者にも責任を持って働いてもらえるようにするためにも、労働条件をきちんと確認した上で提示し、お互い気持ちよい関係性が築ければいいですね。

 

事業主なら知っておきたい解雇と労働法のこと

日本では、解雇にまつわる問題はとても敏感です。なぜなら、労働者は労働法規により働く権利が強く保護されているからです。
 
とはいえ、現実的に雇い入れた従業員がすべて適合しているかと言われれば疑問が残る場合もあるのではないでしょうか。そこで今回は労働法と解雇についてご紹介します。

 

 

労働法とは

「労働法」という名称の法律はなく、労働法は、労働関係および労働者の地位の保護・向上を規整する法の総称です。代表的なものとして、労働基準法などがあります。

 

労働問題に関する様々な法律をひとまとめにして労働法と呼んでいて、そのは、労働基準法や労働組合法をはじめ、男女雇用機会均等法、最低賃金法といった様々な法律が含まれています。

 

労働法設定の背景は、近代以降の資本主義の展開にともない、事業主と労働者との関係に自由平等を原則とするよう設定されました。そのため、雇用される従業員はこの法律に守られているといっても過言ではありません。

そのため、事業主都合による勝手な解雇などもしにくいというのが現状なのです。

 

労働契約法第16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とすると定めています。

いわゆる解雇権濫用法理を明文化したものとなります。

 

労働契約法第17条

期間の定めのある雇用契約(有期労働契約)では、使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、その労働期間が満了するまでの間において労働者を解雇することができないことを定めています。

 

解雇とは

そもそも解雇とは、事業主の一方的な意思表示による労働契約の解除のことを指しています。解除に当たり労働者の合意がないものです。

 

そのため、労働者の生活を断ち切ってしまうことにもなるので、不意打ちのような形で行われることがないよう、各種の法制で規制が設けられています。

 

解雇をすることができる条件として、客観的・合理的理由が必要です。

 

例えば、経営不振による解雇(整理解雇)、長期的な入院や病気、不良な勤務態度や勤務状況、労働能力の欠如、経歴詐称などですが、解雇するに足る正当な理由があるか否かについては、先に述べたように客観的・合理的理由が必要です。

 

勤務態度で言えば、解雇に値する程度の勤務不良が必要となります。その外、それまでに注意していたか、それまでに戒告等をしていたか、弁明の機会を与えたか等々も加味して、解雇が有効か無効か、判断されることになります。

 

不当解雇を行った場合は、解雇が無効となったり、損害賠償責任が問われたりする可能性がありますので詳しいことについては専門家に相談するのが安心です。

 

解雇方法

労働契約法第20条第1項では、事業主が労働者を解雇しようとする場合は、労働者に、少なくとも30日前の予告をしなければならないことが定められています。予告をする際は、解雇日について、何年何月何日というように特定しておかなければなりません。

 

なお、予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することが出来るとされています。

 

30日分の賃金を払えば30日まるまる短縮できますし、10日分を払えば予告期間は20日で良いことになります。

 

解雇トラブルは後を絶ちませんので、法律等をよくご確認頂き、実際に解雇していいのか悩ましい場合は、専門家に相談するなどしましょう。