(Q13)課徴金の対象となる行為:不当な表示であると知らずに商品やサービスを販売していましたが、課徴金を払わなければならないのですか。

払わなければならない可能性があります。

例えば、衣料品の小売業者Aが、卸売業者Bから「カシミヤ100パーセント」であると説明を受けたセーターを仕入れ、売り場に「カシミヤ100パーセント」のポップを立ててこれを販売していましたが、実は、このセーターは、「ポリエステル100」だったとします。小売業者Aは、手触りがカシミヤと違うとは思いましたが、卸売業者Bの説明をそのまま信じて「ポリエステル100パーセント」のセーターをお客さんに売っていました。

この例では、小売業者Aは、商品の表示が実際と違うことを知りませんでしたが、このような場合も課徴金を支払わなければならないのでしょうか。残念ながら、このような場合であっても小売業者Aは、セーターの売上げに応じた課徴金を支払わなければなりません。

もちろん、A社に「ポリエステル100パーセント」のセーターを「カシミヤ100パーセント」であると説明して販売したB社も課徴金を支払わなければなりません。
どこかで実態と異なる表示が行われると、それを信じてさらに販売した事業者に対しても課徴金が課される可能性があるわけです。

(Q12)課徴金の対象となる行為:不当な表示にまったく影響されずに商品やサービスを購入したお客様からの売上げについても課徴金が課せられるのですか?

そうなります。
例えば、いつも5万円で売っていた商品を「今だけ優待価格5万円」と表示して販売していたとします。お客様は、いつも5万円で売っていて、「今だけ5万円」が事実とは違うことを十分知りながら商品を購入していたとします。このような場合であっても、課徴金の計算方法は変わりません。
課徴金の額は、不当な表示がお客様に実際に影響を与えたかどうかにかかわらず、Q○の計算式で計算されることになります。

(Q11)課徴金制度のあらまし:どのような場合に課徴金を支払わなければならないのですか?

事業者が優良誤認表示や有利誤認表示をした場合には、一部例外はありますが、課徴金を払わなければなりません。

優良誤認表示とは、例えば、15万kmも走行した中古自動車に走行距離1万kmと表示するような場合です。

有利誤認表示とは、例えば、いつも1万円で売っている商品に、「期間限定、今だけ半額で1万円」などと表示する場合です。

自社の商品やサービスにこのような不当な表示をした事業者には、課徴金が課せられる可能性があるわけです。

 

(Q10)課徴金制度のあらまし:どうして課徴金制度が作られたのですか?

一番大きなきっかけは、平成25年秋に表面化した、ホテルやレストラン等でのメニュー表示問題です。

当時、有名ホテルやレストラン等で「バナメイえび」を「芝えび」と表示したり、冷凍保存魚を「鮮魚」と表示したりするなどしていたことが公になり、社会問題となりました。

当時、私は、法務省刑事局に所属しており、国会で「何らかの方法でこのような不適切な表示を処罰することはできないか。」などという質問が出た場合に備えて、あらゆる関連法令を調べたのですが、このような行為をしたことをもって直ちに刑事罰を与えることができるような規定は当時、見当たりませんでした。逆に言えば、十分な抑止力のある法律が見当たらない状況であったからこそ、原材料名を偽るなどした問題のある表示が横行していたわけです。

このような状況は、やはり国会でも問題視され、まず、平成26年6月に都道府県知事に不当表示に対する措置命令(措置命令については、あとで詳しくご説明します。)を行う権限が与えられるなどの法改正、平成26年11月には、課徴金制度を新設する法改正が行われました。

その後、課徴金に関して必要事項を定めた景表法施行令、景表法施行規則が定められ、平成28年4月1日から、課徴金制度の運用が始まったのです。

(Q9)課徴金制度のあらまし:課徴金って何ですか?

2016年4月1日、不当な表示をした事業者に対し、課徴金を課すことができる改正景表法が施行されました。

この改正は、昭和37年に景表法が制定されてから、もっとも大きなものであり、事業者に与える影響も大きなものです。課徴金は、最大、3年間の売上げの3パーセントの額になりますから、課徴金が課された場合、経営に与える影響は甚大です。

この記事では、どうして課徴金制度がつくられたのか、どのような場合に事業者が課徴金を支払わなければならないのか、その金額はどのように計算されるのか、課徴金の金額に不満があるときはどうしたらいいか、どのようにして課徴金を支払うのか、課徴金を支払わなかったらどうなるかなど、実務的な観点から、ご説明していきます。

(Q8)景表法で禁止されている不当な表示であると指摘されたケースはどうやったら調べられますか?

全国公正取引協議会連合会は、景表法違反行為等のデータベースを作成しています。

問題となった時期や業種別に検索をすることができますので、参考となるケースをお探しの方は利用されるとよいかもしれません。

http://www.jfftc.org/ihanDB/index.html

(最終訪問:2016/4/13)

(Q7)景表法で禁止されている行為:その他誤認されるおそれのある表示とはなんですか?

優良誤認表示や有利誤認表示のほかにも、商品やサービスについて、お客さんに誤解されるおそれがある表示をしてはならないとされています(法第5条第3項)。

経済社会は複雑なので、優良誤認表示や有利誤認表示を禁じるだけでは不十分な場合が考えられます。そのような場合、一般の消費者に誤認されるおそれがある表示を特に指定して、個別にそのような表示を禁じているのです。

現在、景表法に基づいて①無果汁の清涼飲料水等についての表示、②商品の原産国に関する不当な表示、③消費者信用の融資費用に関する不当な表示、④不動産のおとり広告に関する表示、⑤おとり広告に関する表示、⑥有料老人ホームに関する不当な表示の6つの類型が定められています。

  • 無果汁の清涼飲料水等についての不当な表示

無果汁・無果肉又は果汁5%未満の清涼飲料水、乳飲料類、アイスクリームなどについて、「無果汁・無果肉」であること、果汁・果肉の割合(%) を明瞭に記載しない場合、以下の表示は不当表示となります。
◦果実名を用いた商品名や説明文の表示
◦果実の絵、写真、図案の表示
◦果汁・果肉と似た色、香り、味(=表示)

  • 商品の原産国に関する不当な表示

原産国がどこか一般消費者には簡単には分からない場合に、次のような表示をすると不当表示になります。
◦原産国以外の国名、地名、国旗等の表示
◦原産国以外の国の事業者、デザイナー名、商標などの表示
◦国内産の商品について文字表示の全部又は主要部分が外国の文字で示されている表示
◦外国産商品について文字表示の全部又は主要部分が和文で示されている表示

  • 消費者信用の融資費用に関する不当な表示

消費者金融等の融資に関する費用について、実質的な年率が簡単にわかるように書いていない場合、例えば融資費用の金額を表示することなどは不当表示になります。

  • 不動産のおとり広告に関する不当な表示

実在せず、取引ができない不動産を広告に載せたりすることは不当表示になります。

  • おとり広告に関する不当な表示

広告に掲載されている商品が実はごく少数しか用意されていないのに、そのことが明示されていない場合等が不当表示になります。

  • 有料老人ホームに関する不当な表示

例えば、夜間における最小の介護職員や看護師の数など、介護職員等の数がはっきりと書いていない広告は不当な表示になります。

富士フイルムの特許が無効? アスタキサンチンを巡る訴訟

報道によれば、富士フイルムが特許権の侵害を理由として、DHCに対し、「DHCアスタキサンチン ジェル」、「DHC アスタキサンチン ローション」の製造販売差し止めなどを求めた訴訟の判決で、裁判所は、特許が無効であることを理由に富士フイルムの請求を棄却しました。

特許が無効になることがあるのかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、現状として、実は、特許は無効になるケースは決して珍しいものではないのです。
特許は、出願時点で新規・進歩性の要件が認められなければ付与されません。そして、新規性、進歩性については、特許庁がこれを審査するのですが、特許庁が審査の際、すべての先行文献を調査することは不可能と言わざるを得ません。
そうすると、実は、新規性も進歩性もないのに、特許庁が審査の際、先行文献を見落とすなどしたために、特許が与えられてしまうケースが少なからずあるのです。そして、特許を取得した企業が、特許権の侵害を理由に競合する企業にライセンス料の支払を求めた場合、支払を求められた側は、相当のコストと労力をかけて特許をつぶそうとします。具体的には、出願より先に存在する文献(技術論文、カタログ、業界紙、書籍等)を必死で調査するのです。

特許を無効にできる資料が発見できた場合、ライセンス料の支払を求められた企業は、特許庁に対し、特許無効審判を請求します。
今回の件でも、DHCは、2015年2月、特許無効審判請求をし、特許庁は、2016年3月、特許が有効であるとの審決をしています。

一方で、富士フイルムは、2015年8月、DHCに対し、「DHCアスタキサンチン ジェル」、「DHC アスタキサンチン ローション」の製造販売を差し止める仮処分命令や1億円の損害賠償の支払を求めて東京地方裁判所に訴えを提起していましたが、2016年8月、東京地裁は、富士フイルムの特許が無効であるとして富士フイルムの請求を棄却しました。ちょうど、特許庁の審決と東京地裁の判決の結論が正反対になったわけです。

この判決を出した長谷川浩二裁判長は、平成2年に任官された後、平成17年には、知財高裁の判事を務め、平成25年からは、東京地裁の部総括判事を務めていらっしゃいます。
そして、昨年には、やはりサントリーホールディングスがノンアルコールビールの特許を侵害されたとして、アサヒビール「ドライゼロ」の製造・販売差止等を求めていた訴訟で、特許が無効であるとしてサントリーホールディングスの訴えを棄却していますから、特許の有効性について、やや厳しい見方をする裁判官なのかもしれません。
富士フイルムとDHCの特許を巡る争いは、今後、東京高裁に勝負の場を移します。当事務所は、本案件を引き続きウォッチしていきたいと思います。

病院・クリニックのホームページでの情報提供が変わります

報道によれば、美容整形、脱毛、脂肪吸引等の美容医療については、治療を受けた患者からの苦情や相談が急増しており、これを受けて厚生労働省は、虚偽や誇大な表示を禁止する新たな規制を設ける方針を固めたようです。

(これまでの経過)

これまで、厚生労働省は、「医療広告ガイドライン」において、「インターネット上の病院等のホームページは、当該病院等の情報を得ようとの目的を有する者が、検索サイトで検索した上で閲覧するものであり、従来より情報提供や広報として扱ってきており、引き続き、原則として広告とはみなさないこととする。」としていました。

しかし、病院・クリニック等のホームページにおける不適切な情報提供が継続していたため、平成27年7月、消費者委員会は、「美容医療サービスにかかるホームページ及び事前説明・同意に関する建議」を提出し、医療機関のホームページも「広告」として扱うよう要求しました。

これを受け、厚生労働省は、医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会を開催し、この秋をめどにその方針を決する予定です。そして、8月に開催された検討会では、医療機関のホームページは、引き続き広告とはしないものの、虚偽・誇大な表示については、より強い規制を設ける方針を固めたようです。

厚生労働省が発表した資料によれば、ホームページに対する規制については、「美容医療分野を中心に、医療機関のウェブサイト等の閲覧を契機として受 診行動に至ることが一般化している中、医療機関のホームページにおける情 報提供の適正化を図る必要がある。 医療機関のウェブサイト等を、広告できる事項が限定されている医療法上 の広告とすると医療情報の提供促進に支障が生じるとの懸念が多く示されて いること等を踏まえ、引き続き医療法上の広告としては扱わないが、情報発 信の観点からも認められないような虚偽・誇大な表示等が規制されないこと は適切ではないことから、こうした不適切な表示を禁止する規制を新たに設けることとしてはどうか。」という方向性であるようです。

医療機関のホームページを巡る規制については、厳格化の方向にあるようですから、関係者の皆様は、現在のホームページに問題がないか、いまのうちからチェックしておいたほうがいいかもしれません。

(参考)

(虚偽の広告と罰則)

医療法第6条の5第3項は、内容が虚偽にわたる広告をしてはならないと定められています。医療広告ガイドラインによれば「絶対安全な手術です!」などと記載することは、虚偽広告に当たるとされています。医学上、絶対安全な手術などあり得ないからというのがその理由です。虚偽広告をした者に対しては、6月以下の懲役又は30万円以下の処罰が設けられています(医療法第73条第1項第1号)。

(誇大広告と罰則)

また、医療法施行規則第1条の9第2号には、「誇大な広告を行ってはならない」、「客観的事実であることを証明することができない内容の広告をおこなってはならない。」と規定されており、これに反すると、都道府県知事等により報告命令が出されたり、病院等への立入り検査等が行われ、その後、広告中止命令、是正命令が出されることになります。この命令に従わないと、やはり6月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになります。

(誇大広告の例)

医療広告ガイドラインによれば、「誇大な広告」とは、必ずしも虚偽ではないが、施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、事実を不当に誇張して表現していたり、人を誤認させる広告を意味するものであるとされています。具体的には、美容外科の自由診療の際の費用として、「顔面の〇〇術 1か所〇〇円」と記載されているが、この料金は、5か所をまとめて施術した場合の料金であって、1か所だけの施術だと倍以上の価格になる場合は、誇大広告となります。

(客観的事実であることを証明することができない内容の広告の例)

医療広告ガイドラインによれば、「客観的事実であることを証明することができない内容の広告」とは、患者や医療従事者の主観によるものや客観的な事実であることを証明できない事項についての広告」を意味するものであるとされています。具体的には、患者の主観を記載した体験談の紹介は、これにあたりますから、広告ができないこととなります。また、「比較的安全な手術です。」との記載も何と比較して安全であるか不明であり、客観的な事実と証明できないため、広告ができないこととなります。

(最後に)

この記事を執筆するに当たり、様々な病院、クリニックのホームページを拝見しましたが、将来、広告表現として問題となり得る記載が残念ながら非常に多い状況です。広告については、医療法のみならず、景品表示法についても問題となり、場合によっては、不当表示に関係する売上げの3パーセントという高額の課徴金を課される場合もあります。これを機に、ホームページのコンプライアンスチェックを検討されてはいかがでしょうか。

(Q6)景表法で禁止されている行為:優良誤認や有利誤認で出てくる「著しく」とはどういう意味ですか?

この記事をごらんの皆さんの中には、優良誤認や有利誤認のところで「著しく」という言葉に疑問をもった方がいらっしゃるかもしれません。
実際のものより「著しく優良であると示す表示」が不当表示として禁止されるなら、「著しく」なければ不当表示にならないのではないかと思われた方、実はそのとおりなのです。

広告、宣伝には、多少なりとも誇張・誇大が含まれるのはむしろ当然であり、事実だけを伝えていては広告、宣伝の効果は上がりません。そこで、誇張の程度が「著しい」場合に限って、これを禁止しているのが景表法なのです。

それでは、「著しい」かどうかはどのように判断すればよいのでしょう。

この点について、明確な基準があるわけではありません。
例えば、優良誤認の記事であげた「走行距離1万kmと表示していたが、実は走行距離15万km」の例についてですが、走行距離を15分の1にしているわけですから、社会常識から考えて、これは「著しく」優良であると示す表示をしたといえるでしょう。しかし、これが「走行距離14万9999kmと表示していたが、実は走行距離15万km」だったら、「著しく」優良であると示す表示をしたとはいえないのではないでしょうか。それでは、走行距離の表示を1万3000kmにしたらどうか、1万kmにしたらどうかと考えていくと、やはりある時点から、「著しく」優良であると示す表示をしたと評価されることになると思います。ただ、それがどこなのかを一律に示すことは困難であり、「著しい」かどうかは、社会通念にしたがってケースごとに判断していくほかないように思われます。